哲学者 / 現代西洋

現代カナダの政治哲学者(1931- )。コミュニタリアニズムの代表的論客であり、ヘーゲル研究・近代的自己論・世俗化論で英米と大陸の哲学を結ぶ稀有の存在。マギル大学名誉教授。『自我の源泉』『世俗の時代』など壮大な著作を残し、テンプルトン賞(2007)、京都賞(2008)、バーグルエン賞(2016)などを受賞している。

この人から学べること

テイラーから現代のリーダーが学ぶ第一は「真正性は他者を前提とする」という洞察である。「自分らしさ」をエゴイズムとしてしか語れない現代の自己啓発に対し、テイラーは真正性が共同体・歴史・他者の声と切り離せない構造を持つと論じる。本物のリーダーシップは私的な内面ではなく、共有された価値地平との対話で形成される。第二に、承認の政治の論理は、ダイバーシティ&インクルージョンの哲学的基礎を与える。「私の同一性は他者との対話で交渉される」――ここから、ジェンダー、人種、宗教の異なる人々が共存する組織設計の指針が引き出される。第三に、世俗の時代論は、価値多元主義の時代における意思決定の地形図である。「内在的フレーム」のなかで超越的根拠なしに価値選択を続けねばならない条件は、現代の倫理的リーダーに共通する課題である。彼の問いは、宗教の有無を超えて、何をなぜ大事にするかを言葉にする力を求めている。

心に響く言葉

我々が自己であるのは、ある事柄が我々にとって重要だからである。自己としての私とは、私の同一性とは、本質的に物事が私にとって意味を持つあり方によって規定される。

We are selves only in that certain issues matter for us. What I am as a self, my identity, is essentially defined by the way things have significance for me.

真正性 (ほんもの) は、自己の外側からくる要求の敵ではない。むしろそうした要求を前提としている。

Authenticity is not the enemy of demands that emanate from beyond the self; it supposes such demands.

我々の時代は、信仰なき安住に落ち着いてなどいない。我々は、複数の異なる解釈があることに気づかずにはいられない条件のうちに生きている。

Our age is very far from settling in to a comfortable unbelief. We live in a condition where we cannot help but be aware that there are a number of different construals.

自分の同一性を発見することは、孤立して作り上げることではなく、表に出る対話と内的な対話の双方を通じて他者と交渉することである。

My discovering my own identity doesn't mean that I work it out in isolation, but that I negotiate it through dialogue, partly overt, partly internal, with others.

生涯と功績

チャールズ・マーグレイヴ・テイラーは、現代カナダを代表する政治哲学者であり、英米分析哲学とドイツ大陸哲学を架橋する稀有の知性である。1931年モントリオール生まれ。1952年マギル大学を歴史専攻で卒業し、同年オックスフォード大学のローズ奨学生となって哲学・政治学・経済学(PPE)を学び、1961年に哲学博士号を取得した。

学生時代の1957年、E・P・トムソンらと『大学および左翼評論』誌を創刊して英国新左翼運動に参画。同誌は1960年に『ニューレフトレビュー』へ発展する。1961年カナダ帰国後はマギル大学とモントリオール大学で哲学を教えるかたわら、ケベック新民主党の結成に関わり、1962年から68年まで4回国政選挙に挑戦した。1972年から1998年までマギル大学政治学部教授、その間オックスフォード大学チチェリ社会政治理論教授等を歴任した。

研究者としての出発点は1964年の博士論文『行動の説明』である。本書は認知心理学の方法論を批判し、自然科学的方法だけで人間を理解できないと論じる――ディルタイ的解釈学の系譜に立つ立場で、現象学・解釈学・分析哲学を横断する彼の思考様式の出発点となった。1975年の『ヘーゲル』はヘーゲル研究の標準的著作となり、彼の名を国際的に知らしめた。

1989年の主著『自我の源泉』は、近代的自己が「内面」「日常生活の肯定」「自然の声」という三本の源泉から形成されてきた歴史を、プラトンからフーコーまで600頁を超す射程で描き出した。1991年の『「ほんもの」という倫理』はその応用編として、近代の「真正性 (authenticity)」概念の誤読と再生を論じる。1980年代にはサンデル、ウォルツァー、マッキンタイアと共にリベラル・コミュニタリアン論争を主導し、共同体的善と個人の権利を両立させる第三の政治哲学を提示した。1990年代以降は多文化主義をめぐる世界的論争を牽引し、承認の政治の理論を体系化した。

2007年の畢生の大著『世俗の時代』では、西欧社会で「神への信仰」が500年かけて多くの選択肢の一つに変質した過程を、内在主義的フレームの構築史として描く。同年テンプルトン賞、2008年京都賞思想・芸術部門、2016年バーグルエン賞を受賞。1994年にはタイの民主主義に関する報告書、2008年にはケベックでのイスラム系住民との共存に関する政策提言『未来を築く』をまとめている。英語・フランス語・ドイツ語のいずれでも論文を書く稀な多言語使用者でもあり、生涯にわたり北米の英米哲学世界とヨーロッパ大陸哲学を結ぶ橋として活動を続けている。さらに2015年にはAI研究者ヒューバート・ドレイファスとの共著『実在論を立て直す』を刊行し、表象主義的認識論への批判を展開した。2020年には『民主主義の再構築』を市民参加論の文脈で問うなど、晩年に至るまで主要論争で発言を続けている。多文化主義論争では「承認の政治」(1992年)が世界各国の多元社会の制度設計に直接影響を与え、彼の名は現代社会哲学の最頻出論者の一人として教科書に刻まれている。さらに英米分析哲学の言語哲学にも独特の貢献を残し、近年の業績では認知主義への批判的読解と、ケベックや先住民との関係を扱う応用倫理の論考が知られる。生涯にわたり実践と理論の両輪で精力的な活動を続けてきた哲学者である。

専門家としての評価

現代政治哲学におけるテイラーの位置は、コミュニタリアニズムの代表的論客にして、ヘーゲル・ハイデガー・メルロ=ポンティを継承する稀有な大陸的英米哲学者である。リベラル・コミュニタリアン論争でサンデル、ウォルツァー、マッキンタイアと並ぶ存在感を発揮し、近代的自己論・世俗化論・承認の政治論で20世紀後半の政治哲学を地形ごと拡張した。現代哲学のパッチワークを縫い合わせる稀有の存在として記憶されている思想家である。

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人物相関

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よくある質問

チャールズ・テイラーとは?
現代カナダの政治哲学者(1931- )。コミュニタリアニズムの代表的論客であり、ヘーゲル研究・近代的自己論・世俗化論で英米と大陸の哲学を結ぶ稀有の存在。マギル大学名誉教授。『自我の源泉』『世俗の時代』など壮大な著作を残し、テンプルトン賞(2007)、京都賞(2008)、バーグルエン賞(2016)などを受賞している。
チャールズ・テイラーの有名な名言は?
チャールズ・テイラーの代表的な名言として、次の言葉があります:"我々が自己であるのは、ある事柄が我々にとって重要だからである。自己としての私とは、私の同一性とは、本質的に物事が私にとって意味を持つあり方によって規定される。"
チャールズ・テイラーから何を学べるか?
テイラーから現代のリーダーが学ぶ第一は「真正性は他者を前提とする」という洞察である。「自分らしさ」をエゴイズムとしてしか語れない現代の自己啓発に対し、テイラーは真正性が共同体・歴史・他者の声と切り離せない構造を持つと論じる。本物のリーダーシップは私的な内面ではなく、共有された価値地平との対話で形成される。第二に、承認の政治の論理は、ダイバーシティ&インクルージョンの哲学的基礎を与える。「私の同一性は他者との対話で交渉される」――ここから、ジェンダー、人種、宗教の異なる人々が共存する組織設計の指針が引き出される。第三に、世俗の時代論は、価値多元主義の時代における意思決定の地形図である。「内在的フレーム」のなかで超越的根拠なしに価値選択を続けねばならない条件は、現代の倫理的リーダーに共通する課題である。彼の問いは、宗教の有無を超えて、何をなぜ大事にするかを言葉にする力を求めている。