作家・文学者 / 文豪・作家
ミゲル・デ・セルバンテス
スペイン
ミゲル・デ・セルバンテスは「ドン・キホーテ」で近代小説の基礎を築いたスペインの作家。騎士道物語に取り憑かれた老郷士の冒険を通じて、理想と現実の相克をユーモアと哀愁で描いた本作は、世界初の近代小説とされ、400年以上にわたり世界文学の最高傑作の一つに数えられている。
この人から学べること
ドン・キホーテの「風車に突進する」姿は、周囲から無謀と笑われながらも理想を追求するイノベーターの寓話として読める。多くの成功したアントレプレナーは、当初「狂気」と見なされた。重要なのは、ドン・キホーテの「見たいように世界を見る」力が、時に現実を変える力を持つということだ。ビジョナリーとは本質的にドン・キホーテ的であり、世界をあるべき姿として見る能力こそがイノベーションの源泉である。
心に響く言葉
正気すぎるのも狂気かもしれない。最大の狂気は、人生をあるがままに見て、あるべき姿として見ないことだ。
Too much sanity may be madness and the maddest of all, to see life as it is and not as it should be.
真実は細くなっても決して折れない。そして常に嘘の上を、油が水の上を浮くように歩く。
La verdad adelgaza y no quiebra, y siempre anda sobre la mentira como el aceite sobre el agua.
多く読み、多く歩く者は、多く見、多く知る。
El que lee mucho y anda mucho, ve mucho y sabe mucho.
生涯と功績
ミゲル・デ・セルバンテス(1547-1616)はスペイン中部アルカラ・デ・エナーレスに、流浪の外科医の息子として生まれた。青年期にイタリアに渡り、1571年のレパントの海戦に参加して左手の自由を失った(「レパントの片腕」)。帰路でバルバリア海賊に捕らえられ、アルジェで5年間の捕虜生活を送った。
帰国後は税金徴収官など不安定な職を転々とし、投獄も経験した。この波乱の人生体験が「ドン・キホーテ」の豊かなリアリティの源泉となった。
「ドン・キホーテ」(前編1605年、後編1615年)は、騎士道物語の読みすぎで頭がおかしくなった老郷士アロンソ・キハーノが、「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」と名乗り、従者サンチョ・パンサとともに冒険の旅に出る物語。風車を巨人と間違えて突進する場面は、無謀な理想主義の象徴として世界中で知られる。
しかし本作の真の偉大さは、単なるパロディを超えた深さにある。前編はドン・キホーテの狂気が滑稽さを生むが、後編ではその理想主義がかえって人々を感動させ、狂気と正気の境界が揺らぐ。メタフィクション的な構造(作品中で前編の読者が登場する)も、近代小説の先駆的技法として評価される。
「ドン・キホーテ」は出版直後から大ヒットし、世界中に翻訳された。セルバンテスとシェイクスピアが同じ1616年に死去したことは文学史上の偶然として記憶される。セルバンテスの功績は、騎士道物語のパロディから始まり、理想と現実・虚構と真実・狂気と正気の関係を問う「小説」という形式そのものを発明したことにある。
専門家としての評価
セルバンテスは近代小説の創始者であり、「ドン・キホーテ」は世界文学史上最も重要な小説の一つ。理想と現実の相克というテーマの普遍性、メタフィクション的技法の先駆性において、400年後の現在もなお斬新さを失わない。